前野健太『ファックミー』

前野健太の新作『ファックミー』を聴いた。最初は、いいんだけれど、あまりにスルリと聴けてしまうこと自体に違和感、でも何度も聴いてみて、少しずつ少しずつ、もやもやとしていたものが晴れていくような気がしてる。それについてちょいと書いてみる。

このアルバムの最初の違和感は、多くの場所で語られる通り、曽我部恵一と豊田道倫という2人の才あるシンガーとの対比として「前野健太」という存在があるように一瞬見えるから、ではなかろうか。もちろん、自分も最初はそう感じた。でも、それはちょっと(いや、かなり)違うのではないか、と。

今から3年前、長谷川健一と麓健一、そして前野健太という三人のSSWでイベントをやったことがある。かつて斉藤和義/中村一義/山崎まさよしが「三よし」と呼ばれていたように、この今を生きる色気のあるSSWをあえて無理くり一括りにしてみて、「三健祭り」をやってみた、というわけ。で、この三人が並列に並んだとき、逆に彼らの個性の違いが見事に浮き彫りになってきた覚えがある。そして、その3人の中で、一般的には最もスタンダードだと思われていたマエケンが、実は一番別の枠にいるっていうことが、その場にいた誰もが気づいたと思う(逆に、一番異物感がある存在と思われていたフモケンが、ある種のスタンダード性を背負っていたことに気づいたのも面白かった)。一見、スタンダードにみえて、実はかなり違う「何か」、それが何か分からないけれど、そこが魅力的だった。で、それ以降もずっと彼の歌を聴きながら考えていた。

そして、3枚目のアルバム『ファックミー』。なんだ、ファックミーって(笑)。ファッキンでもファック・ユーでもファックオフでもない。直訳したら「ねぇ、やって」みたいなことかしらん。「ファック」という言葉自体はとても男根的だけれど、ファックミーだと真逆のイメージ。面白いのが、昨年、NYでのライヴで歌う「ファックミー」。Youtubeにあったので一応アップ。

最初の「ファックミ〜ぃ〜」で笑い声が起こる。いきなり日本人のシンガー、かつ見た目ちょいと男根的な空気を感じさせる彼が、やや細い歌声で「ファックミ〜ぃ〜」と。それが洒落なのか、あえてネコ的立ち位置を演出したのか、それとも女歌としてなのか、とにかく「FUCK ME」の意味が曖昧過ぎることに対しての笑いだと思う。でも、それは曲が進む上で、日本語であれば自己否定の意味で用いられていることに気づかされるが、英語ではまったく説明が成されないわけで。にも関わらず、聴衆は最後の「DO RE MI FUCK」で彼を受け入れているのが分かる。歌詞の意味が通じなくても、マエケンという存在の異物感だけははっきり伝わっている一例だと思う。

それで話は本作へ。もちろん、アルバムとして語るべきところは多いけれど、断片のみをば。とにかく、この「ファックミー」が面白い。正直、タイトル曲にすべき派手な曲や、もっと詩的表現が美しい楽曲も本作には収録されている。なのに、一番無駄なる暴発感が高いこの曲をタイトルにしているのは、きっと何かしらの意図があるはず。加え、なぜかこの曲にはプロモーションビデオが2種、制作されている。

1本目は、マエケンの名を世界に知らしめた「ライブテープ」の松江哲明監督によるもの。

そして、もう1本は、「遭難フリーター」を記し、ずっと昆虫キッズを追いかけていた岩淵弘樹監督によるもの。

もちろん、完成度だけ見れば、松江監督によるPVが圧倒的。楽曲が持っている切なさとか、若干のエロさとか、駄目な感じとかがバーンと広がってくる出色の仕上がり。ただ、昨日アップされていたこの雪の中で歌うマエケンの映像を観たときに、「あぁ、やっぱり変だわ、この人」と思った。でもって、その変というか未完成というか、得体が知れないというか……結局、マエケンの中でも自分を客観的に見つめられない部分があって、そのモヤモヤとした部分が自分のアイコンだということは理解している、のではないか、と。八甲田山(なぜ?)の雪の頂上(なぜ??)で最近着続けてるあのオバちゃん服(だからなぜ???)でギターを弾きガナリ歌う。面白いのは、一番最高潮になる素晴らしいギターソロ(これ三輪二郎君のソロなのかな?)を捨てちゃって、レコーディング音源はフェードアウトし、雪山で「もう早く帰りたい」としか思えない感じで声を荒らげ続ける。場所も姿形も虚構だらけなのに、素。チンコ出しながら講釈垂れているようなものなんだけれど、マエケンがやると、それがスルリと入り込んでくるのが不思議。でも、それって、やっぱりオカシイよ、何か。

その違和感がどこから生まれて、いったい「何」なのか、それを具体的に説明するのは磯部涼先生あたりに任せるとして(笑)、俺らはその異物感を異物感のままグイっと飲み干す喉越しを愉しんでみたいと思う次第なり。

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  • 冒頭部分、自分もかなり共感。いいね、だけで終わらせず何か語りたくなるアルバム RT @mapupnews: 前野健太『ファックミー』 mapupnews http://bit.ly/fPbpLs

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  • アルバム買いに行かなきゃ! RT @mapupnews 前野健太『ファックミー』 « mapupnews http://bit.ly/fPbpLs

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  • 前野健太が好きで、でも一番言いたいところがうまく説明できなくて。コレ→読んでそうなんですよ!と思いました。RT @mapupnews 前野健太『ファックミー』 « mapupnews http://bit.ly/fPbpLs

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  • ふむふむ…と読んでたら、最後に自分の名前が出て来て吃驚 笑。確かにこのヴィデオは最高。http://bit.ly/eerpTg マエケンの服、オバちゃんにも、RAKIMにも見える… RT @mapupnews: 前野健太『ファックミー』 http://bit.ly/fPbpLs

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  • 面白いし、いろいろ納得! RT @maenokenta_info: RT @mapupnews: 前野健太『ファックミー』 mapupnews http://bit.ly/fPbpLs

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  • 小田さんのこれを読む。ホント、歌詞の私が〈私〉を掴めきれない感じや、別物とはいえ『DV』発売もあったりで、マエケン自身が乱反射しまくってる現象が興味深すぎる。ジャケットが象徴的 RT @mapupnews: 前野健太『ファックミー』 http://bit.ly/fPbpLs

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