稲田誠(part 1)

兵庫県の明石市に、稲田誠というウッドベースを弾いたり、録音したり、時にはSAKEVIとも言える歌声を聴かせたり、企画のイベント「IKITSUGI」を旧グッゲンハイム邸でしたり、棚レコードというインディレーベルを主宰している男がいます。分かりやすく言えば……子沢山の優しいお父さん。

いや、そういうことじゃない。そうじゃない。違う違う、そ〜おじゃなーい。そんなに簡単に括れるものじゃない。何を言いたいかと言えば、この2011年に関西アンダーグラウンド・シーンというものがあるとするならば、そのある大事な部分を請け負っているのは間違いない、そんな人だ。ミュージシャンやエンジニアとしてだけでなく、まぁ、こう「どうやったら音楽を辞めず続けていくのか」というひとつの方向としても。

これは、関西圏の人たち以外は誤解されているかもしれないけれど(いや、俺の勘違いか?)、実は「関西圏」と一括りにしちゃうのって、ちょっと間違えてるんですよね。実際、神戸があって、大阪があって、京都があって。もちろん、それぞれはリンクしていたり交流もあったりもするんだけれど、思いの外遠い、ということ。決して仲が悪いとかなんとかじゃなくって、別々の文化圏がそれぞれに熟成しあっているっていう説明が正しいかもしれない。

で、稲田さんは、今は明石という場所に住んでポップスやロック、奇妙な音楽全般に関わっているけれど、まぁ基本は神戸の音楽シーン、それもジャズや即興シーンの中におられた人でした。この神戸の即興シーンって言うのも話せば長くなるんだけれど、内橋和久さんが主宰していたニューミュージック・アクションっていうワークショップがあって、そこでは世界的な視点で見ても行なわれていなかった試行錯誤が成されていたそう。そして、稲田さんは、そこから現れてきた一人。 他にも、かえる目で活動する木下和重くんとか、popoやアキビンオオケストラでトランペットを吹く江崎將史さん、若手で言えば半野田拓くんとかがこのワークショップに参加していた。実は、まだ大学生の宇波拓くんもわざわざ神戸まで月に一度出向いて行っていた、とのこと。ここらの話はいつかちゃんと調べたいと思っています。

だから、今から15年くらい前、京都に居た俺は稲田さんとか江崎さんの存在は存じ上げていたのだけれど、当時即興等に疎かった自分にとっては、どこかとても遠い存在というか、「若くして難しいことをやってる人」という印象があったのです。だからこそ、それから7年くらい経ったとき、突如mapに届いた1枚のCD-Rに本当に驚かされたんです。それは、まだファースト・アルバムを出す以前の「ブラジル」の音源でした。そこには、まったく自我が感じられない歌声と見事な形で「間」が構築された土台のない音楽が記されていました。なのに、これは間違いなくポップスの手触り。いったい何なんだ、コレは、と。で、その首謀者が稲田さんだと分かって、ますます混乱したものです。もちろん、そのころにはpopoの山本信記くんから少しは話しを聞いていたんだけれど。

その半年後くらいに、この音源はMIDI Creativeから『希望』という名前でリリースされました。「コレは驚くだろうなぁ」って思っていたけれど、佐々木敦さんとかが話題にしたくらいで、思ったより反応がなくて、あれあれ、と。まぁ、それはきっと時代と寄り添うような類の音ではなかったからなんだろうけれど、だからこそ、今聴いてもこの作品はとにかく素晴らしい! 特に西崎さんの歌声は、今とは少し違う形の幼児性を持っていたり、とか。でも自信に溢れてる感じが堪らない。まさに大物の器。

その前後に、大阪のブリッヂ周辺に行った際、時々稲田さんに会って話してみたら、ここ10年くらいで、少し音楽の聞き方や関わり方が変化してきた様子。それは、ブリッヂ周辺の若い音楽家たちや、棚レコードからリリースしている川端稔さん、時折ベースを担当している倉地久美夫さんのような異才たちとの出会いも大きかったのではないかなぁと思ったりも。また、その過程で、どんどん年下の音楽家たちと交流し始めた中で、名古屋のteasiと知りあったご様子。

そんなこんなで、ウチからリリースすることになったteasiの『壁新聞』を稲田さんに録音してもらうことになり、その録音が本当に本当に素晴らしく、その後もことあるごとにレコーディングをお願いすることに。実は、そのレコーディングの内容の独自性や音楽家とのかかわり等に関して、もっと書きたい部分もたくさんあるのですが、それはまた別の機会に。ただ、今や関西でレコーディングをお願いする際、稲田さんか、大阪のかきつばたの西川文章先生という信頼できる人たちがいるってことで、自分たちにとっては全部お任せできることもあって、本当に楽させていただいている次第でございます。

そんな稲田さん、実は、今回の4タイトルリリース中の2タイトル、シラオカ『部屋』とTomoe Inoue and her fragile casioのエンジニアリング(というかプロデュースだよなぁ、もはや)も担当。加え、かえる目の「街頭行進」でもウッドベースを弾いていただいたりと、3タイトルに関わっているというとんでもない状況でござーます。まさに明石に足を向けて寝られない!

んでもって、今月は氏の企画IKITSUGIをはじめ、ライヴは多数ありあり。当レーベル周りで言えば、三田村の亀井さんのソロとか、gofishとか、見所聞きどころは満載でございます。こちらももしよろしければー。ぜひー。

■3/12(土) 「PAAP/PARODYレコ発!」 PAAP/Ett/カタリカタリ/しんせき@名古屋新栄カフェパルル

■3/13(日) IKITSUGI 14 「PAAP/PARODYレコ発」& BONANZAS 2マン! food:山路せい麺@塩屋旧グッゲンハイム邸

■3/19(土) IKITSUGI 15 「ピアノソロ数珠繋ぎ」 bikemondo/カメイナホコ(from ウリチパン郡)/ウタモ(from ウリチパン郡)/西滝太(from PARA)/IEGUCHI(from PARA)@塩屋旧グッゲンハイム邸

■3/20(日) Gofish+稲田誠b/黒田二郎g,vo/日野浩志郎g@NAKED

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