新しいメディアはとてもぬくい

一昨日、ダウンロードに関して思うところを一気に書いたわけですが、うーん、なんだかまだまだもやもやしています。ちょっと一気に書いてしまったので、考え足りないことも多く、誤解をまねくようなこともたくさん書いちゃって、うーん、どうなのか、と。本当に、こういう形で何かを伝えることができるのか、どうなのか。まだまだ言い足りない、書き足りない、考え足りないことがたくさんありすぎて、もやもやがずっと続いていたりします。だから、もう少し、考えること、考えたことを書き記していこうと思います。

もちろん、面白いこともたくさんあって、誰かがどこかでダウンロードしてくれるたびに、自分のメールアドレスに「◯◯さんが買ってくれました!」とメールが届く。深夜の2時、朝方の7時に、日本中(もしかして世界中のどこか)で、誰かがこの音楽に対してリアクションをくれているのが分かる。聴くだけだったら視聴するだけで全曲聴けるんだけれど、「この音楽に対しておひねりをくれる」感じで、誰かがリアクションを届けてくれる。コンピューターに向かいながら、その先でいったいどういう気持で音楽を聴いてくれてるんだろうか、そんなことをふと思ったりするんだ。好きな人と寄り添いながら「コレいいなぁ」かもしれないし、たった一人でじんわりと聴いてくれてるのかもしれない。ただ、コンピューターの向うだけれど、そこに人がちゃんといる、ってことにふと気づいたりしたのです。

で、ちょうど自分がダウンロード云々でもやもや悶々としているちょうどその裏で、Twitter越しにふと見つけた、なんだか面白い出来事があった。昨日、ちょっと祭り状態になっていたからご存知の方も多いだろうけれど。

いつもお世話になっているリルマグのモモちゃんのツィートにこんなのがあった。

このエラ通信、どうやらリルマグでも扱ってるZINE等を作ってる多摩美の子がやってるらしい……あれ、多摩美の千原(航)くんクラスのなぎに来てくれてた子かな?【訂正:モモちゃんからの指摘で、こちら武蔵美の子がやってるとのことでした。すいませーん】 まぁ誰でもいいんだけれど、とにかくセブンイレブンのネットプリントサービスを使って、ペラの紙新聞みたいなのをダウンロードさせる、というだけのもの。でもこの「だけ」がなんだかとってもいいなーって。この詳細に関しては、既にまとめサイトができてるみたいなので見てもらえればですが。

このエラ新聞の賢いなぁって思うのは、ネットプリントっていうシステム自体を新たなメディアにしちゃったってことだと思う。ただ、そんな新たなメディアにも関わらず、意図せずしてやけに人肌な感じになっちゃったってことがとにかく素敵。もちろん、このエラ新聞自体が手書きの、かつ丁寧に作られたものだったってことがなおさら人肌感が高い感じになってる。それがいい。それがたまらん。なんだか、とてもいい。

そんなエラ新聞に対して、我らがかえる目のかえるさんこと細馬弘通氏は、さすが腰が軽い、動きが早い。面白い、と思った瞬間に反応して電車の中で手書きで書き綴ったメモを元にした「車内放送」をあっちゅう間にネットプリントにアップ。


さすが、細馬先生(本当に先生)。じゃあ、ダウンロードだ……と勢いいさんで仕事を抜けだしてコンビニへ……あ、ローソンじゃだめやん! そうか、セブンイレブンしかあかんのね。俺、よく分かってないわ。加え、俺、アホやからダウンロードするための認証番号を紙の切れ端に書いてる……それ、携帯とかでチェックすりゃええやん。せっかくiPhoneとか使ってるくせに、紙の切れ端に数字がポツポツ。あぁ、ローテク。

で、翌日プリントアウトー。一応、画像のキャプチャも見れるけれど、小さすぎて何が書いてあるか分からない。ぬるぅっと出てくる間のこの楽しみな感じ、出てくるまでどんなことが書かれてるのか分からない。出てきた瞬間、「なんじゃ、これ」。いや、手書きの文字がつらつらと。でも、なんだろ、なんか嬉しい。で、細馬さんも言ってるとおり、 コピー機から出てくるから「物理的にぬくい」(笑)。ちょっとでかい(A3)けどな!

でも、本当にこのメディア(と呼ぶようなものではないかもしれないけれど)を体感してみていろいろ考えた。ちょうどダウンロード販売云々のもやもやした感じがあったからっちゅうのもあるんだろうけれど、いったい、この「なんじゃこりゃ」なものがなんで嬉しいんだろうか、と。コレを細馬さんから手渡しで「あげるー」って言われても、果たして嬉しいんだろうか、と。でも、嬉しいんだよなぁ。こうして手に入れる瞬間、出てくる瞬間が、とにかくうれしい。価格は20円、冷静に考えたら高いかもしれんけれど、このちょっとした嬉しさの対価としては全然高くない。

話は逸れますが、一昨日、図書館のかえる目カバーのダウンロードに対して、とある方からツボを突かれた質問をされて、 いろいろ考えさせられたんですが、その際に「今、「果たして音楽とは“手に入れられるものなのか?”」とずっと考えあぐねていたりもします」と書きました。実際、今でもそう思ってるし、音楽の入っているパッケージは「モノ」だけれど、音楽自体は形のあるものではないわけで、それを手に入れたと感じることと、本当に音楽を心の中に入ったと感じることは別じゃないか、とずっと思ってます。じゃあ、何かを手に入れると感じることは、いったいなぜに嬉しいんだろうか、何故にリアルに感じるのか、そんなことを思っていたりもするんです。

で、話を戻して。

このネットプリントサービスをやってみて思ったのは、 実際に「何をダウンロードするか?」っていうことではなく、「ダウンロードするまでの自分のその行動と、それを作っている人とつながってるような、その感覚」が楽しくて、嬉しいんじゃないかと。そのためにわざわざセブンイレブン探して、20円払ってぬるっと出てくるのを待ち、ちょっとぬくい紙をカバンに入れて自転車に乗って帰る。そんなひとつひとつの行動自体が大切なことなんじゃないかなぁーって。

で、個人的な話なんだけれど、ずっとずっと昔に、それもまた細馬さんを介して、同じような思いをしたことがある。

今から20年ほど前、俺はJoe’s Garageっていう京都の百万遍あたりにあった中古レコ屋の小さな喫茶カウンターで初めて細馬さんと知り合った。まぁ、その時の話も面白かったんだけれど、たぶん、その時に俺がmacintosh(LC520!)をようやく手に入れてうれしいって話をしたんでしょうね。で、 ハイパーカードの話になって……ハイパーカードって知らない人も多いんだろうけれど、本当に今でも強烈に凄いいちメディアだと思います。というか、あれがmacに標準搭載されてなかったら、macなんて他のコンピュータと同じだったんじゃないかと……そのスタック(わかんない人は調べてねー)、確か国際バカスタック協会云々とかって言ってたんだっけ? とにかく、細馬さんは巻上公一さんらと共に、そんなスタックを作る人として有名な人だっていうのを知ったんです(当時細馬さんは、パソ通時代のネットアイドルだったんですよ!)。うわぁ、そうなんだぁって思ったりもしたけれど、当時はインターネット以前の時代、パソ通(パソコン通信)をやってる人もごく一部で、メール・アドレスなんてものも持ってなかった。だから「そのバカスタック、一度やってみたいけれど、どうやって手に入れたらいいのかなぁ?」なんて話をして、その日は別れたんだと思う。その時、連絡先の交換とかしたのかな、よく覚えてないんだけれど。

それで、2日ほど後のことかな。深夜2時とか3時くらいだったと思うけれど、百万遍の俺のオンボロアパートの新聞ポストに「ゴトっ、カタっ」って音がして、何かが入ったような気がした。その時、俺はちょうど寝入ったころやったんで、よく調べなかったんだけれど、翌朝見てみると、1枚のフロッピーディスクが、素のままで玄関のところに転がってた(笑)。うわぁ、これ、こないだ話してた「バカスタック」だって気付いてやったーってコンピューターにぶち込んで……でも、内容は正直そんなに覚えていない(ゴメンなさーい!)。でも、なんだかむっちゃ嬉しかった覚えがある。意図せずして何かをもらったのももちろん嬉しいんだろうけれど、そういう感じとは少し違う。なんだろ、あの感じ。

まず、「スタック」っていうのは、当時最も新しいメディアのひとつだったと思う。最新のテクノロジーを使用したメディア。もちろん細馬さんが作ってたスタックは、そういう「テクノロジー!」って感じじゃなくって、なかなか間抜けな代物。でも、ハイテク。ハイパーっていうくらいだし(笑)。それが、ね、深夜のボロアパートに、わざわざ作者が直接歩いてやってきて投函する、というその手作り感な行為とのギャップがとにかくおかしかったし、面白かった。なんだろうか、届ける人がいて、それを届けられる人がいて、ようやく成立するコミュニケーション、というか。ただ、コミュニケーションといっても、何ひとつ話すことなく、その小さなフロッピーディスクというメディアだけを介して「うれしさ」や「楽しさ」が配布されるようなその感じに、なんだかグッと来たんだと思います。

今回のエラ通信が始めたことは、たぶんあっちゅう間に飽きるかもしれないし、何か違う形で消費されちゃうかもしれない。でも、その「人と人が何かを介してコミュニケーションするうれしさ」って部分を刺激することが最もツボなわけで、具体的なネットプリントサービスの部分が問題なわけじゃないんだろうなぁ、とふと思ったり。

今回、ダウンロードで楽曲を販売するっていうのを初めてやってみたんだけれど、それに関しては、今もいろいろもやもや悶々としていたりもする。ただ、もしかしてこんな「ネットプリントサービス」のようなメディアがぬくさを感じさせるんだったら、音源のダウンロードに関しても、やり方次第で何か面白いこと、 ぬくいことができる“かも”しれない。ただ、まだその方法は全然見つけられていない。だからこそ、いろいろ考えて、いろいろ動いてみようと思ってるのです。