JAD FAIR & TENNISCOATS『ENJOY YOUR LIFE』

「飢えた子供の前で文学は可能か?」と問うたのはJ.P.サルトルらしいけれど(原文を読んだわけではないので、らしい、で!)、そんな命題に対し「可能です……すぐ死ぬ」と皮肉っぽく言ったのはだれだっけ? なんか、中学生のころにそんな言葉をたまたま目にして、サルトルの言葉よりもその回答に対して、すげぇ極論抜かすなぁって思ったけど、「逆説で不可能ってことか?」とか、「そんな考え方もあるのか」とか、「確かにそちらの方が幸せかも」とか、「何ぬかしてんねんボケ」とか、「あぁ、死ぬってことはなんだろう」とか、ね。なんだかよく分からないけれど悶々といろいろ考えちゃった中学生……いや、未だに自分は、その命題に対して、自分なりの答えをちゃんと見つけられていないボンクラです。

震災、放射線を撒き散らす原発事故以降、ずっと忘れていたそんな言葉が再び頭の中にむくむくと湧いてきた。死の光景が、テレビの中から、新聞から伝えられ、そして目にも見えない放射線に確実に蝕まれてるそんな毎日の中で、自分が今やってること……レコードを作ったり、飯を作ったり、文字を書き連ねたりすること……はいったい何なんだろうなぁってずっと考えてた。そして、今も考えてる。でも、よくよく考えてみれば、それは中学生の時からずっとずっと心のどこかにあったことが、このとんでもない時代でより明確にせざるを得なくなっただけ、なのかもしれんなぁとも思うんだ。でも、やっぱりまだまだ答えは出ない。じぇんじぇん出ないけれど、それでも作り続けなくちゃ、俺が死んじゃう。もちろん、デモにも行くし、俺でもやれる行動は全部やっていくだろうけれど、とにかく何かを作り続けることにしたボンクラです。

ジャド・フェア叔父とテニスコーツが編みこんだ『ENJOY YOUR LIFE』を聴くのはとてつもなく楽しく、そして辛い。ジャドさんが日本にやってきて、植野くんやさやさんと共に東京で録音をしていたのが震災の前、そしてツアー中の大阪で3月11日を迎え、翌12日に旧グッゲンハイム邸で歌われた「上を向いて歩こう」のyoutube映像を何度何度も涙をこらえながら見ていた、あの数日の記憶がこの音源を聴くたびフラッシュバックしてくる。もちろんこの音源は震災の数日前に記録されたものだから、とても屈託の無い笑いの時間がたっぷりと詰まっているんだけれど。

音楽というものは、たぶんそういう力もあるんだろうなぁ思ってる。自分の体験や思いとか記憶とか、よく分からないけど心の中にもやもやしたものとそこに屹立してる音楽が、それぞれの人の中でたまたま共鳴しあったりする瞬間があって、そこで心が震わされたり、まったく震えなかったりするのだろうなぁって。それは、とても個人的な事象なんだけれど、レコードというか記録されたものを聴くとき、時折多くの人々のモヤモヤとした気持ちが共有されることがある。たぶん目の前でなってる音楽……いや、人が鳴らしている音楽こそがホンモノで、それ以外のもんはフェイクというか別物だと思う。でも、記録されたものを媒介として多くの人が時間や場所を越えて何かを共有できる可能性があるのなら、やっぱり記録は作られた方がいいんだろうなぁって、今はっきりと思ってる。

と、個人的な重〜い思い(!)を書きつらねてみたけれど、この原稿は『ENJOY YOUR LIFE』のレビューです(笑)。そんな個人的な記憶と作品はまた別の話。そして、大切な友人でもあるテニスコーツ、心の底から尊敬、いや崇拝に近い気持ちを抱いているジャド・フェア叔父、録音を担当した大城真パイセン、mapの相方でもある甘い夢見がち〜(RG風に)な男・福田教雄が丁寧に編んだ「とにかく楽しい」作品なのです。そんな楽しい作品だから、楽しく書くのがいいね!

でもねぇ、この作品はとても楽しい作品だけれど、決して「傑作」なんかじゃないです。あえて言葉にしてみれば、「よく分からない作品」「問題点が分からぬ問題作」「おかしな人たちのおかしな作品」「ゴロンと何かが横たわってるドキュメント」……みたいな感じかもしれないけれど、絶対「傑作」ではない。「傑作」と呼ばれるような作品自体の重さはここにはないし、まったくといっていいほど作りこまれていない。もし傑作と呼びたいんだったら、「傑作界の異端児」ってのはどうでしょう……って何だそりゃ。とにかく、大城くんの自宅で、おかしな人たちが楽器持って真面目に遊んでるのをでろーんと記録したもの、そのもの。ライナーで植野くんが書いている「仕事帰りのお父さんが、家で宝焼酎を飲みながらプロ野球を見てる感じで聞いてほしい」ってのがとにかく言い得て妙。

アルバムは、得体の知れない輩たちらしく、ただただ「ドブドブドブドブドブぅ〜ドブドブ……」と歌う「ドブドブ」で幕を開ける。この曲、ライヴで最初聴いたときに冗談かと思いましたよ(笑)。だって「ドブドブ…」ですよ。なんだ、ドブドブって。とにかく恐ろしいほどのプリミティヴさでインパクトが凄い。テニスコーツのこれまでの歌詞の中でも「オリジナルてんぽらちゃ」(「てんぽらちゃ」とは別の曲で、ライヴでアドリブ的に演奏された強烈な言葉を携えた作品。作品化希望!)を超えるインパクト。だって「ドブ」だもの。でも、この曲、アドリブ的に作ったように思われるかもしれないけれど、さやさんはコレをちゃんと「楽曲」として譜面に起こしていました。いや、このアルバム全体を通して「ゆるーい」空気が充填されているけれど、適当に作っているわけじゃない。ジャドさんもヘッドフォンをしっかりと付けてマイク位置を確認しつつ、自身の歌詞ノートをおっぴろげて、言葉を丁寧に選んでいたらしいし、テニスコーツ側もちゃんと曲を用意して待っていたらしい。でも、その結果が「ドブ」(笑)。

しかし、先日の拙宅の息子の幼稚園でテニスコーツにライヴをしてもらった際、もちろんこの「ドブドブ」を演奏。ライヴ前に子供たちと演奏した後にさやさんは一言、「あ〜、自分たちのレパートリーに「ドブドブ」があってよかった〜。そのためにあったような曲だね!」と嬉しそうに。確かに、他のどのバンドもこんなプリミティヴな曲をレパートリーに持ってはいません。

そして、ジャドさん持参の歌詞ノート(あー、これ、本当に読んでみたかった!)から言葉が紡ぎ出されていく「All that, and more」や、テニスコーツならではの美しい旋律にジャドさんの言葉が重なり合う「My hearts has wings」と続き、珠玉の1曲「みなさんはどこへ」。この曲の3人が「うん、ウン、ummm!」って掛けあう瞬間がとにかく好き……なんだ、俺、「とにかく好き」って。子供か(笑)? ただ、この「みなさんはどこへ」は「皆さんは何処へ」なのか「ミナさんは何処へ」なのか? 多分「皆さんは何処へ」かな? テニスコーツの『ぼくたちみんなだね』や『とてもあいましょう』のように、日本語ネイティヴではない外国人が誤訳した言葉の妙に反応してるさやさんだし、このジャドテニスでもジャドさんにうろ覚えで日本語を歌わせることに楽しみを感じていたらしいので……あれ、でもこないだの幼稚園の時に「あ、「みなさん〜」を子供の名前にして歌えばよかった〜」とも言ってたな? あれ、分からないです。どうでしょう、どうでしょう?

そしてこのアルバム最大の問題曲にして、とんでもないドキュメント完全掲載(笑)、永遠に歌えない歌うことができない「隣組」 。もちろん昭和初期のあの曲のカバーですが、とにかく歌えない。おかしくてずっと歌えない。このおかしみは実際に聴いてもらうしかないんだけれど、とにかくジャドさんの「トントントンキャラリニョトニャリギュミィ」がたまらんです。これ、だらだらとしたドキュメントノーカットのように思っていたけれど、さっきヘッドフォンで聴いたら途中でバッサリ編集してる! あれ、これ本当はもっと長かったんだ。どんだけ笑い続けてたんだ、実際。それでも、ほとんどジャドさんは笑ってないのがまたオカシイ。「え、何が起こったの?」みたいな表情が音から見て取れる。なんじゃ、これ?

【追記】
そういえば、このレコーディングから旧グッゲンハイムまでのツアーを立川セプチマの主人、ハタノシュウヘイさんが記録しているらしい。でもってその予告編っていうか、アルバムの宣伝っちゅうかの映像をちょいと貼りつけてみる……あ、やっぱり「隣組」でジャドさん、ただただ戸惑ってるだけだ(笑)。

あと、もう1曲の大名曲「すぐおばけ」。「シュグオバーケー!」と歌い続けるジャドさん、その意味も伝えず歌ってもらっていたらしいけれど、結構ノリノリです。一度ブレイクして以降のジャドさんのノリが勢い付いているのがはっきりと分かる。まだ歌いたい、まだ歌いたい、でも歌ってる言葉は「すぐおばけ」。この曲は、こないだの幼稚園ライヴで最も反応が良かった曲で、曲と曲のブレイクがあるたびに「すぐおばけ」をコール。都内某幼稚園では、未だにちびっこたちが「すぐおばけー!」と歌い続けている大ヒットチューンです。

このアルバムを録音したのは、サウンド・アーティストとして珍奇な自作楽器を制作したりもしている大城真、かの虹釜太郎(!)をして「テン年代以降もっとも重要なアーティストになる」と賞賛する男であり、たゆたうの新作「糸波」にプロデュースともいえるほど関わって作り込んでくれたエンジニアでもある。いわゆるスタジオ的な音作りではなく、音を時間を持った絵画のように捉えることを得意としているだけに、今回の録音は見事にはまった模様。彼の自宅スタジオにてくつろいだ雰囲気での演奏ゆえ、ときおり「ゴツっ!」っとか「ムーン!(たぶんギターの音)」、スタッフ各氏のしゃべり声が楽曲に混じって聴こえてくるけれど、それまでがひとつの音楽のように響いてきます。ただ、そのまんまを盤に記したのではなく、ホントは結構細かくエディットしてる部分もあったり。それが技巧に聴こえないのが巧い!

美しい1曲「金木犀走」(きんもくせいそうって読むのか?)でのジャドさんの少し調子っ外れのコーラスがとにかくいい。声が最高に笑っている。このアルバムは録音していった順に並べているとのことだけれど、ジャドさんの歌声は、曲を増すごとにどんどんどんどん明るく、優しく、笑い声が素敵になっていくのが分かる。「金木犀走」の後くらいにもう1度「ドブドブ」を聴けばよく分かるけれど、冒頭では実はジャドさんの声も硬いし、あの変なギター(グニグニにゴムのように曲ってポルタメントがかった変な音しか出ないギター)の音もまともだったりします。ジャドさんですら、緊張していたのかしらん? そういうことってあるんだろうか?

ジャド・フェア叔父について少し。

ジャドさんって、とにかく凄い人なんですよ。前も書いたかもしれないけれど、福田くんとmapとして何十本もツアーやライヴをしてきたけれど、その中で最も「凄い!」って思ったのは、間違いなくジャド・フェアです。それは、「ローファイ・キング」とか、そんな得体の知れない形容では永遠に伝わらない凄さなんです。生で彼を見たら、きっとほとんどの人が彼のことを好きになるだろうなぁって思う。なんだろ、音楽っていうか人間の根源的な可笑しみっていうか、それを持っていて、その人間力を音楽に投影している人です。アウトサイダー的に語る人もいるかもしれないけれど、実際に会って話せばとても紳士で、かつ優しく、そして眼の奥は少しだけ怖い人であり、恐ろしく音楽が好きで好きで仕方がない人だったりします。例えばジャドさんのFacebookのフォロワーになれば分かるんですが、毎日毎日恐ろしい量の見たこともない聴いたこともない、でもすべて素晴らしい音楽の映像をyoutubeでチェックして教えてくれる。ここ半年くらいは、本当にここで知った素敵な音楽がどれくらいあるだろう? sweet dreamsのブログにて、VJ形式で並べてくれているので、ご興味が在る方は一度チェックをば(実は今もそれらを聴きながらこの原稿を書いています)。それくらいジャドさんは、音楽と音楽の歴史を知り尽くし、そして先人たちへ敬意を表しながら音楽を作っていたりする。天然で何かを生み出しているわけでは決してなく……ただ、とにかく、その量が過剰なのです。

また、コレはちょっとおかしな話なんですが、以前のジャド・フェアのツアーの際、長野県は松本アレックスでの公演の際(このライヴは本当に良かった〜)、客席でジャドを見ていたオウガ・ユー・アスホールの出戸学くんは、自分のとなりに誰かいるなぁって思ってよくよく見たら、お化けがそこに立っていたそうです。お化けも見に来るジャド・フェア、まさに「すぐおばけ」。

最後の「your love protects me」は、このおもろうてやがて悲しきこのアルバムのラストを飾るに相応しい1曲。ギター・アルペジオと鍵盤ハーモニカの旋律に載せて、呟くようにジャド・フェア叔父は歌う。彼の目に映るハピネスは、きっと俺たちと同じ形をしているはず。この先何年も会わなくても、このアルバムがあれば、きっといつでもあの日のことを思い出すことができる。優しく、たおやかで、でも決して希望ばかりを語ったりせず、地に足をしっかりと付けて歩く、そんなジャド・フェアおじさんが大好きだ。

「きみとぼくへのハピネス
それはきみ、それはぼく
きみとぼくとで素敵なぼくら
オー、マイ・ソウル
彼女の愛はぼくのプロテクター
彼女の愛はぼくのプロテクター」

長々と書いてきたけれど、ごめん、このボンクラは、今日はひとりで泣くよ。 それじゃ!