妄想をかたちに……ホライズン山下宅配便『とべばいいんですよ〜』

ホライズン山下宅配便を語る前に、まずこの映像を。

そして、もうひとつ。この映像を。

これは、名曲「Take me to the river」(邦題:私を川に連れてって 嘘)のシル・ジョンスン・バージョンとリバイバルヒットさせたトーキング・ヘッズの映像。あ、この曲のオリジナルは確かアル・グリーンですよね、あれ、どうだっけ? まぁ、シル・ジョンスンのこの映像は、boid樋口さんのツィートで知ったんだけれど、カッコイイなぁ。なんだよ、このカッコ良さたるや。いや、イメージとして、オリジナルの「Take me to the river」はたしかにソウルフルなんだけれど、もう少しためた感じの音だと記憶してた。でも、何、このファンキーでパンクな感じは! デヴィッド・バーンは社会的な認知としては、「ニューウェイヴ創始者のひとり」だったり、「アートロックの総本山」だったりするんだろうけれど、樋口さんも書いていた通り、こんな音楽をイヤというほど聴いて育ったんだろうなぁ。アル・グリーンももちろん好きだっただろうし、このバージョンはアル・グリーンの方が近い。でも、シル・ジョンソンのスタイリッシュでありながらパンクな匂いの方が、トーキング・ヘッズ的であったりすると思う。でも、シル・ジョンスンの世界観を自分がそのまま演じることはできないという諦念、しかしそれを理解した上でも憧れ、あのかっこ良さを自分なりに妄想し突っ走り、時に客観視しながら具現化したのが、トーキング・ヘッズの核だったんじゃなかろうか、と思ったりする。

根底にあるのは非常にエモーショナルでスタイリッシュ、でも、デヴィッド・バーンと会話する脳たちの「妄想」のフィルターを通すと、その容貌はどこか極端な歪みを持ち、異物感を呈し始める。その部分こそが面白いし、心震わされるのだ。しかし、それは意図して「奇抜なことをしよう」としたのではなく、彼らの憧れと妄想がの結果だと思う。バディ・ホリーやリトル・リチャードに憧れた4人組が世界のポップミュージックを根底から変えたように、デヴィッド・バーンは、シル・ジョンスンのスタイリッシュなパンク感を昇華し、トーキング・ヘッズを産み落としたんだと思う。

奇抜なことをしてるわけではなく、スタンダードの持つ核を拡大解釈させることによって生まれてくる異物感。

と、いうことで、こんにちは、ようやくホライズン山下宅配便です(笑)。
ホライズン山下宅配便の音楽、それは決して奇怪なものでも難解なものでも怖いものでも意味不明なものでもなく、とてもスタンダードなR&Bやソウル、カントリー・ブルースやフォーク・ミュージックをベースとしつつ、それが精神的支柱でもある黒岡まさひろの妄想をスルーすることによってオリジナルなものまで昇華された音楽、なんだと思うのです。そして、その歪みの法則が、どうも先に述べたトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンと非常に酷似しているように俺には思えたりするのです。

まず、少し説明をば。現在、ホライズン山下宅配便は、 とんちれこーどのディスコグラフィを見ると3枚のオリジナルアルバムをリリースしているように表記されているけれど、実はそれ以前にも幾つもCD-Rをリリースしている。実は、コレが本当に素晴らしいし語るべきことが山ほどある。特に伴瀬氏のピアノを中心とした『玉手箱博覧会』の凄さはいつかまた書きたいところですが、今回はそれではなく、2005年にリリースされたフル・アルバム『とべばいいんですよとべばぴょんぴょんぴょん』について。とにかく、名曲しか入っていないアルバムであり全然難解でもないけれど、あまりに妄想が現実離れし過ぎて、(当時は)世の中と折り合いを付けることができなかった1枚だと思う。

本作は、当時、倉林哲也が店を切り盛りしなければならなくなった等の理由から脱退、一時期2人編成になる以前の4人編成(現在と同メンバーによる)のアルバム。バンドの歴史や楽曲の細かな成り立ちに関しては、昨年末ライヴで配布された(現在は販売されている)『ホライズン山下宅配便 172曲 全曲解説』を読めば一目瞭然なのだが(なのか?)、 このアルバム以前は、ライヴをやるために曲を作り、次のライヴでは全然違うことをするの繰り返しをしていたそうな。だからこそ、いわゆるポップス的な「ヒット曲」はあり得ないし、その現場自体がひとつの作品という演劇的な発想で音楽を作っていたと思われる。コンセプトさえあれば、幾らでも曲を作ることができる、勢いのある、勢いがありすぎて時代を置き去りにしていたのだろう。それゆえに、膨大な名曲がそれ以前の7年ほどの間に生まれては消えていった様子。しかし、本作『とべばいいんですよ〜』を作るに際して、過去の名曲をベスト盤的な扱いでレコーディング、そうしてできたのが、この『とべばいいんですよとべばぴょんぴょんぴょん』。昨年1年かけて行なわれた「ホライズンベスト10曲」のうち5曲(「甲子園」「雨の日」「Ku-mon式脱退のテーマ」「レーズンパン」「魔王のテーマ」)選ばれているのを見ても、本作がベスト盤的なものだというのがよく分かる。

まず、何と言っても……音が悪い(笑)。いや、悪いってわけではないなぁ。一般的なハイファイ感とは少し違うサウンドと言うべきか。これは録り音にも問題があるんだろうけれど、全体を通して器楽音が歪んでしまっているし、ミックスをコンピューターの中で完結させちゃったゆえか、全体の音が引っ込んでしまって1枚か2枚フィルターがかかってしまっているように聴こえるのも事実。だけれど、何度も聴き直すと、その「音の悪さ」がこのアルバムの魅力のようにも思えてくるから不思議。何といえばいいのか、ガレージ的な歪音の魅力の延長なんだけれど、天上の低い場所でもがいているような、あの、あれですよ、宇多田ヒカルの「Automatic」のPV的釣天井部屋を両手で押し上げている感じというか(わかりにくいですか、そうですか)、大爆発を起こすのではなく、ある制限の中で小さな暴発を繰り返し結果、細かく血を流しているような、そんな感触をこの音質は導かせるのだ。

泥臭いブルース・ロックの匂いを詰め込んだ「甲子園」でアルバムは幕を開ける。スピーカーに音がはりつくような伴瀬のギター・クリア・トーンがなんとも心地よいのだが、黒岡らしい詞世界がそんなシブ味を見事に払いのける「やっちゃった感」がたまらない。結局、語るのは「甲子園に出てるメンバーのほとんどが、ピッチャーの高見と付き合ってる信子ちゃんのことを考えてる」っていうことだけ。実はメロディとギター・リフはローリング・ストーンズの「Fight」(『Dirty Work』での「Harlem Shuffle」の前のストレートな曲)そのままパクリのようだが(笑)、ドラムの倉林のリズムがチャーリー・ワッツっぽいもっちゃり感があるのに対して、スティーヴ・ジョーダンのキレのいいリズムで作られた「Fight」とは、結局似て非なるものになっている。というか、もしかしてチャーリー・ワッツが叩いてたらこんな感じだったのかも、なる妄想もありかも。もちろん、この詩世界、特別に面白いわけでもないんだけれど、その映像がババーンと見えてくる。ニキビ面、坊主頭の甘酸っぱい思い、裏切られる気分、今、もっと大事なことがあるだろ、と思ったりもするけれど、そういうものだ。そういうものなんだ。

そして、続くのは、いきなりホライズン山下宅配便を「わかりにくいもの」にしている(けれど、ライヴではそれが楽しい理由になっている)ロック・オペラ的な楽曲「レモンと肉ひだ」。このアルバムの中でロックオペラ的な楽曲といえば、この曲と大ヒット曲「Ku-Mon式脱会のテーマ」 「学芸会」等が挙げられる。しかし、ロック・オペラっていったいなんなんだよなぁ、変なジャンルやなぁって思う。どんどん荘厳になるだけなっていくにも関わらず、手触りはどんどんチープになるわけで。それはザ・フーの『トミー』でもキンクスの『アーサー、もしくは〜』でもいいんだけれど、本人たちが真剣にやればやるほど、どこか笑いと地続きになっていくようにも思われる。それを逆手にとって、「オカシイことやっているようだけれど、その実深いものがある」太陽肛門スパパーン(実際、ホライズンは少なからず影響を受けている様子)のようなバンドもあるけれど、ホライズンの場合は「オカシイことをやっているようで、かつただオカシイ」という軽やかな場所に立っているのが素敵だ。元々、ファビュラス・モーテルズというロックと演劇をごちゃ混ぜにしたパフォーマンス集団からスタートしたトーキング・ヘッズとの相似性もここに見つけることはできる(ちなみに黒岡氏はある一時期、舞踏の訓練を受けていた時期があるというのは内緒の話)。

ただ、これはアートだの表現といったことでもない。とにかく、言いたいことなどやはり何もない。ただ、気持ちが先走ってほとばしってるだけ、ということ。それを「ナンセンス」と呼ぶのだと思うけれど、今の時代ナンセンスはとても生きにくいんじゃないかなぁ、とも思う。彼らのそんな態度を見るにつけ、「ナンセンスに復権を!」と心から思う。でも、しゃあないよなぁ、とも思う。

「Ku-mon式脱退のテーマ」は、黒岡氏による「トンガリ唱法」(キテレツ大百科のトンガリ)を始め、さまざまなキャラクターが命を吹きこまれ対話を繰り広げる。この部分に関しては、ロックオペラというよりも、ロック落語的なものか。また、キャラクターが歌う黒岡氏に取り憑いて離れないのは、「魔王のテーマ」でも聴ける。小学生の魔王、どこかテンション高めの魔王、頭の少し悪そうな魔王が、よく分からない自己紹介をするだけの曲。オリジナル「魔王」から遙か遠くまでやってきた感がある1曲。でも、取り憑いた感じであることには変わらない。

ただ、彼らはこの取り憑いた感じを「憑依代弁」という言葉で説明している。憑依した何者かが勝手に歌ったり自分を語ったりすることを指しているのだろうが、まぁイタコ状態で万物すべてを歌わせるというのものだろう。例えば、バスの中でのオバちゃんの会話、酔っぱらいの戯言、そんな「普通とは違うキャラクター」を元に妄想を広げることによって、ホライズン山下宅配便の登場人物たちは生を与えられているのだろう。

演奏的な巧みさで聴かせるのは、「高速バス」と「ンドゥールのテーマ」あたりか。「高速バス」は前出の『全曲解説』でもほとんど触れられていないのだが、河合一尊のファンキーなベースと倉林のカウベルの絡みだけで極上のグルーヴを生み出しているのが楽しい。もちろん、多くの方がご存知の通り、彼らの演奏は音から聴きとれる以上に巧い。ソロでこそ得体の知れない世界観と天才性で魅せる倉林だが、彼のルーツにはロックなどほとんどなく、学生時代は野球と合唱に明け暮れていたという変わり種。いわゆるロック的なドラムではないところにホライズンの特異性が存在しているのだろう。また、ソロでははっきりと分かる体全体を使った不思議な独特の唱法も、学生のころからの訓練の賜物らしい。何かが憑依する黒岡のヴォーカル、フォーキーなハーモニーを聴かせる一尊、黒っぽさを醸しだす伴瀬、そしてクラシック的な指向性を見せる倉林……あの分厚いコーラスワークも一筋縄ではいかない実力から生まれてきているのだ。

この作品の中で最も異物感を醸し出してるのが、一番スタンダードな楽曲でもある「雨の日」であることが面白い。この「雨の日」、昨年のベスト10で、なんと2位にランクインしたという名曲中の名曲。ただ、この曲自体、本当に普通に(といってしまうのは違うのだけれど) いい曲で、少しヤサグレた男の等身大を描いたそのまんまの楽曲。「がちゃり」のサビでも同様の寂しくも美しいフォーキーな旋律が聴けるのだけれど、そういうスタンダードに対応できるくせにチョロットしかそんな優しさを見せないのがニクい。でも、熱心なホライズンファンはそういう部分もちゃんと分かってるんだね。本当に素敵な話。

このアルバムに関して、まだ語り足りないこともたくさんあるので、まぁ、これは初稿ということで。ただ、ひとつだけ言えるのは、この作品にはキテレツなことももちろん山ほど詰め込まれているんだけれど、何よりも黒岡を中心としたナンセンスな妄想が、伴瀬、倉林、一尊という巧者たちの手により羽を与えられてこの世にはっきりと具現化されている、という点に魅力を感じる。もちろん、まだ思いのたけや発想のスピードに着いていけていない部分も多々あるけれど、硬いと思って触るとグニャリと柔らかく、グロい見た目なんだけれど食べると妙に旨く癖になる、それがこの作品の力だと思う。一度、本気で向き合って、じっくりがっぷり聴いて欲しいと心から思う。嘘じゃない。

 

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