うつくしきひかり『うつくしきひかり』

その場所には、少しだけくすんだ、
だからこそ眩しい希望があふれる

天上から届けられた、
とてつもなくまっすぐで暖かな陽差し

だから、今、
ぼくはきみに、どうしても聴いてほしいんだ

誰だって、音楽を聴きたくない時がある。大好きでたまらなかったあの曲さえなんだかとてもつもなく空虚に響く、すべての音を消しても部屋の軋みすら苦痛に感じる、そんな時がある。僕がうつくしきひかりの音楽と出会ったのは、去年のそんな時期だった。コンピューターのディスプレイには、youtubeの枠の中で8mmで切り撮られたような淡く懐かしい風景が淡々と映しだされている。そして、ピアノとスティールパンがぶつかりながら追いかけ合い、その狭間から飾り気のない歌がひょっこりと顔を出していた。「ともだちを待っている」と題されたその歌が小さなスピーカーから流れ出したとき、うまく言葉にはできないけれど、僕の心の中でカチカチに固まっていた何かが、少しだけ溶け始めたようなそんな気がした。

うつくしきひかり。流麗なタッチでピアノを響かせながら、ほとんどノンビブラートで迷いのない歌を紡ぐナカガワリサ、饒舌さで魅せるのではなく、それが打楽器であることを再確認させるスティールパンを叩くMC.sirafuの2人。元々、ナカガワが活動していた「ザ・なつやすみバンド」と、数々のバンドでさまざまな楽器を奏でるsirafuが対バンで出会い、その後ナカガワの歌声に感銘を受けたMC.sirafuが、ザ・なつやすみバンド(こちらもこの春ファースト・アルバムをリリース。乞うご期待!)に参加、そこから「うつくしきひかり」は生まれた。ポップでキュートな魅力で弾けるザ・なつやすみバンドとは対照的に、うつくしきひかりはまさにその名の通りの……静謐かつ陽だまりのような音楽、中でも聴き手の想像力が入り込む余地を大きく残したシンプルな音の隙間こそ、彼らの最大の魅力だ。

この恐ろしいほど高い完成度にもかかわらず、うつくしきひかりとして曲を作り始めてから、まだ1年と少しという事実に誰もが驚かされることだろう。「たぶん、2人の音楽的な相性が良かったんですよ~」さらりと語るMC.sirafuは、大所帯パーティポップバンド「片想い」を牽引しながら、昨年大躍進を遂げたceroやアルフレッド・ビーチサンダルらをサポート、今年に入って以降もNRQやmmmの最新作のいいとこに参加する祭神、否、才人。スティールパンだけでなく、ギターやトランペット、フラットマンドリンにヴォーカル、ラップまでもガンガンにこなすが、青春期はテクノ/エレクトロにハマっていた過去も持つ男。その音楽的語彙の豊かさと類まれなる行動力ゆえに、現時点において東京のアンダーグラウンド・ポップ・シーンの最重要人物のひとりであることは間違いない。

このアルバムは、彼らのホームグラウンドである東京を離れ、神戸は塩屋の洋館、旧グッゲンハイム邸において、録音が行なわれた。録音は、ミュージシャンとしてブラジル、かきつばた等で活動し、エンジニアとしてテニスコーツ『ときのうた』でも知られる西川文章が担当。グッゲンハイム邸に置かれているグランドピアノや足踏みオルガン等の楽器はもちろん、床板の軋み、扉の開閉音、そして小さな塩屋の街の空気そのものが、彼らの音楽の一部となってこのアルバムに封入され、彼らの生々しさに色を添えている。

時に讃美歌のように神々しく響き、時に童謡のような愛らしさでくすぐる本作は、多くの人々が忘れかけていた大切な何かを思い出させてくれる力を持っている。そう、僕らにはまだ音楽がある。そして、それは今を生きるためのひとすじの光、だと思う。
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『うつくしきひかり』うつくしきひかり
(compare notes : cn-0031)
JAN:未定
2011.3.8発売 価格:2,100円
1 うつくしきひかり
2 New smile
3 ともだちを待っている
4 外濠公園
5 黙祷
6 針を落とす
7 セカンドライン
8
9 夜